平成27年度 静岡市議会 厚生委員会 管外視察 報告書
報告者 静岡市議会議員 畑田 響
平成27年8月13日 報告
日程 平成27年8月10日(月)広島県尾道市
政策企画課、高齢者福祉課
8月11日(火)京都府京都市
長寿福祉課
京都府宇治市
健康生きがい課
8月12日(水)三重県名張市
健康支援室
訪問者 鈴木(節)委員長、井上委員、遠藤(裕)委員、中山委員、松谷委員、
山梨委員、畑田(副委員長)
<概要>
① 広島県尾道市の取組み
1) おのみち幸齢プロジェクトについて
尾道市では、「住みなれた地域で健康でいきいきと安心して暮らせるまち尾道の実現」と題して、市役所内に副市長をトップとした8名程度の職員による尾道市超高齢化対策プロジェクトチームを平成25年9月に発足させた。わずか4か月ほどで、「超高齢化対策に関する提言書」を125ものアイデアを絞り、10個の提言内容にまとめた。
チームでは、今後増大が見込まれる介護給付費の抑制も1つの目的であったとのこと。
2020年には尾道市の高齢化率が36.1%になると予測されるなど東京オリンピック
開催の2020年にはどのようになっているかを分析している。
テーマを「高齢者の生きがいづくり」、「健康づくり(介護予防)」、「安心に暮らすため
の環境づくり」として、高齢者の高を「幸」とし、「高齢社会のマイナスイメージから
脱却し、歳を重ねることに幸せを感じられる社会の実現を目指す」ことをコンセプト
としている。平成26年度から、提言書の提言内容を順次、事業化しており、平成27
年度では、幸齢ウォーキング推進事業(黒崎水路いきいきロード整備事業)に2700万
円をはじめ3442万円余りのプロジェクトを実施。
2)プロジェクトの主な事業について
⑴ 高齢者の居場所づくり事業(復活!「ばんこ」ミュニケーション)
地域で気軽に集える場として古くからある集いの場「ばんこ」をイメージする
高齢者の交流拠点づくり。机などの備品購入に3分の2以内の補助で上限10万円。
⑵ ええじゃないか農
島嶼部、山間部で、ヤギを使い、高齢者の農業再生の取組みを支援し、生きがいづくりや世代間交流、地域の環境改善につなげる。
⑶ 60歳からのサイク輪(リング)
60歳以上限定で、むかしいま健康福祉祭り協賛行事として実施。地域のボランティアが地産地消のおもてなしを実施し、地域の人との交流を図る。尾道市から橋を渡り四国まで行くことができる。
⑷ 出たもん勝ち(冊子)
まだまだこれから世代の皆さんに地域とのつながりや生きがいを見つけて健康に過ごしてもらうための情報集。公民館講座、スポーツクラブ、特定健診など。
3)静岡市に反映すべき点について
市民税課所属の職員等にも入ってもらい、市職員の有志で、部署横断というか、分け隔てなく、高齢化社会に対応するスピード感のあるプロジェクトチームが、非常に功を奏した結果であるだろう。今回、プロジェクトチームのリーダーを務めた高齢者福祉課の西門氏のチームでの取り組み内容を具体的に聞くことができた。チームが提言書をわずか4か月ほどでまとめたこと、そして、政策企画課がその提言書をしっかりと汲み取り、翌年度予算である26年度から即座に実行に移したことがとても効果的だったと思われる。
また、ええじゃないか農、「ばんこ」ミュニケーション、出たもん勝ちなど地域独特の名称を使うことは市民にも親しみを持ちやすいものになるだろう。あわせて、プロジェクトの名称を幸齢としたところは、まさに市としての高齢者に対する「元気に幸せに暮らしてほしい」という願いを表したものといえよう。
尾道市では、少子化対策プロジェクトにも、この経験が活かされているという。非常に積極的な行政の姿勢は理解できたが、一方で、どのくらいの効果があったかを当事者やそうでない方も含めて、事業のブラッシュアップが必要だと感じた。
事業の規模ではなく、多様化する高齢者のニーズに、わかりやすく、その地域らしく、そして高齢者が生き生きと暮らせるまちは、きっと次に続く世代にも大きく影響することだろう。
② 京都府京都市の取組み
1) ひとり暮らし高齢者全戸訪問事業について
平成24年6月から、市からの高齢者への包括的支援事業の一環として、年に1回、市内在住の65歳以上の一人暮らし高齢者(約7万人)を対象に地域包括支援センター職員による訪問活動を実施。地域包括支援センターは国の目安を基に概ね人口2、3万人に1カ所とし、61か所設置。各センターには、被保険者数と単身世帯数に応じて、専門3職種の各1名ずつ配置し、平成24年度からは全センターに1人ずつ増やし体制強化を図っている。実施状況については概ね、面談できたのが38%、辞退が34%、継続中が28%。75歳以上の方は面談できるのが半数近いが、65歳程度の方はまだ元気だとして面談できたのは25%程度。訪問前に地域包括支援センターから、各学区の民生委員、社会福祉協議会に同行訪問などの協力依頼を行う。あくまで訪問した後の個別の支援(日常的な見守りの必要性、要介護認定の申請など)につなげることが重要としている。なお、京都市では昭和30年代から老人福祉員という日常的な見守り活動の支援制度もある。この全戸訪問を通じて、地域包括支援センターを中心にして、民生委員などの地域福祉組織等との連携が深まり、地域全体で高齢者を見守るネットワーク体制の充実につながっている。また、地域ケア会議(市、区、日常生活圏域、学区、個別の5段階)を平成25年度には534回も実施している。(京都市では、各区ごとに社会福祉協議会や医師会組織が分かれていて、住民の自治意識は他自治体に比べて高いと言える。)
大学の先生の協力の下、高齢者の買い物支援や災害時の対応なども検討をしているところ。
2) 京都地域包括ケア推進機構について
平成23年6月に、京都府、京都市、医師会等39の構成団体により設立。医療、介護、福祉、大学等のあらゆる団体が集結してオール京都体制で地域包括ケア(高齢者のニーズに応じた、住みなれた地域で最期まで暮らしていくための在宅療養支援等の取組みなど)を行う。
現在、事業推進プロジェクトとして、認知症総合対策推進プロジェクト(京都式オレンジプラン)、地域におけるリハビリ支援プロジェクト、看取り対策プロジェクトなどを展開。
機構事務局は、京都市職員等が派遣。
3)静岡市で反映すべき点について
確かに、高齢者の人口増加とともに、ニーズの多様化もあり、地域包括支援センターの
役割は増大するとともに、職員の多忙化は現実だと思う。一方で、多様なニーズであると
ともに、本当に困ったこと、言いにくいことは、なかなか相談がセンターにいるだけでは
行えず、潜在的に個人に留まることが多いと思う。そのため、広く一時的に一人暮らしの
高齢者のニーズを把握し、介護や医療の機関につなげていくためには、このように全戸訪
問が必要だと思う。民生委員、消防署、介護施設等の関係機関をはじめ、静岡市でも行っ
ている新聞配達、信用金庫等の見守りネッワーク実施機関と普段からの横の連携をきめ細
かく実施する「きっかけ」になると思う。ただし、やはり、携わっている地域包括支援セ
ンターや民生委員の現状や課題に対するご意見をまずは聞かなければならない。
京都市担当者からは、静岡市の取組みは非常に参考なると言われ、他の政令市の研究も
実施していきたいとの意欲を示した。
③京都府宇治市の取組み
1) 認知症総合相談支援事業について
平成18年度に宇治市では認知症予防講座を行い、平成23年度に京都府立洛南病院が認知症疾患医療センターを設置するなど様々な取り組みを展開。初期認知症総合相談支援事業は平成25年度から開始。6か所ある地域包括支援センターが社会福祉士、作業療法士、看護師からなる認知症初期集中支援チームを組織している。宇治市で作成した「もの忘れ連絡シート」を使い初回訪問を実施。その後、チーム員会議、初期集中支援へと流れる。チーム員会議の検討ケース数は26年度には65であった。
さらに、認知症対応型カフェ(れもんカフェ)と相談支援事業は連携。カフェは、ミニ講演、コンサートとともに、相談窓口、普及啓発を実施。平成26年度には市内で33回、1,099名が参加。認知症予防として、あたまイキイキ教室、脳活性化教室を実施。平成24年度からは、認知症の人に声をかけようプロジェクト(徘徊模擬訓練)を行い、早期発見の促進、認知症の方が安心して暮らせる地域を目指している。
平成27年3月に市長が「認知症の人にやさしいまち・うじ宣言」を行い、認知症の人が住みなれた地域で自分らしく暮らしていけるように絶えず努力することを謳っている。
2)静岡市で反映すべき点について
京都府全体でも認知症に対して以前から積極的に対策を進めてきており、広域的にその
ような意識が高いことも影響しているだろう。また、認知症の専門医の先生も宇治市内の
病院におられ、その方のリーダーシップが強いようだ。認知症は、誰しもが長生きすると
症状として出てきやすいことから、関係する介護、医療機関とまさに情報共有を図り、患
者さんを排除するのではなく、最期まで安心して暮らせるバリアフリーとそのハード、ソ
フトの体制整備を早急に図る必要がある。
④ 三重県名張市の取組み
1)名張版ネウボラ(フィンランドで自治体が設置する母子支援地域拠点)について
市で行った妊婦さんへのアンケートでは3人目の子を産む際に不安が多いことが分か
った。それを踏まえて、多様なニーズ、産後のサービスが希薄であることなどの課題を捉
えて、名張市の強みとしての地域づくり組織の自治力、まちの保健室の仕組み、主任児童
委員による乳児家庭全戸訪問事業などを活かしていくネウボラを検討。
平成15年に市長が財政緊急事態宣言。自立的、主体的なまちづくりの気運を高め、誰
もが生き生きと輝いて暮らせる地域をつくるため「ゆめづくり地域予算制度」を創立。地
区公民館(小学校単位程度)の範囲で15の地域。
地区の保健福祉センターをまちの保健室と呼び、平成17年度に設置。市の嘱託職員2,
3名(半年ごと任用)。地域の身近な総合相談窓口。市役所に行くまでの相談窓口。ここが
地域づくり組織(民生・児童委員、地区社協、子育て広場活動など)や保育園、幼稚園、
市当局との間に入って、妊婦前の教育、妊娠中の相談・支援、産後直後の心身のケアを実
施。産後ママのゆったりスペースを保育園内に設置ている。また、まちの保健室職員を「チ
ャイルドパートナー」として、母子健康手帳を開くとこのパートナーの名刺が貼ってある。
本年にも塩崎厚生労働大臣も視察し、多くの自治体が視察をしている。
2)静岡市で反映すべき点について
地域の子どもを住民組織や市の保健師、ボランティアなど地域全体で育てる、まさにチームとして、見守る体制を構築している。高齢者や認知症などこれまで日本が経験してこなかった新しい人口構成に対して、核家族化、少子高齢化、晩婚化等の社会情勢により、家庭では解決できない中で、地域の様々な主体が、有機的に機能し、まさに子育てに参画すること、介護をすることが輝けるように環境整備をすることが必要だろう。